(吉野画伯 提供)
会社経営を承継するための遺言
質問:
私は会社を同族で経営している社長です。後継者として、子供のうち1人が承継することを他の子も承諾しております。遺言書の作成で、注意することはありますか。
回答:
会社を経営するうえで、資本金を構成する株式だけでなく、会社への貸付金、会社の工場や事務所などの不動産を貸している場合の賃貸不動産、その敷金、保証金などをオーナー経営者が保有するケースが多いです。そのため、株式だけの承継でなく、会社の事業運営に資する賃貸不動産や敷金等を後継者に遺贈することが必要で、忘れがちです。
また、会社の業績が悪くなりますと、オーナー経営者から会社へ貸付金が累積しがちです。その貸付金は、多くの場合、返済不能となるケースが多くなります。貸付金が多額になりますと、この貸付金は相続財産を構成し相続税の課税対象となり、資金回収が困難なため相続税だけの負担が相続人に重くのしかかります。そこで、生前に、回収不能な貸付金は、債務免除をして貸付金を減らしておく必要があります。
会社の株式を特定の相続人に承継させると、他の相続人の遺留分を侵すことになりかねませんので、遺留分対策をとる必要があります。なお、事業承継税制を利用する場合には、遺留分対策として、民法特例として、除外合意制度、固定合意制度がありますので、利用すべき制度です。また、相続税の軽減措置として、同居親族が居住用不動産を相続するようにすると300㎡までの居住用宅地の相続税評価額について、その80%減の軽減措置等や配偶者の軽減措置等が受けられます。それらの軽減を受けるためには誰に遺贈するかが大切になります。また、株式の承継について、事業承継税制を利用すると、特例措置の場合は100%の軽減措置が受けられます。
遺言書は、相続税の税額軽減、遺留分、配偶者の生活維持、会社経営等の要素を考慮し、誰に財産を遺贈するのかを総合的に判断しながら書かなければならないものと考えます。そのためには、痴呆にならない元気な年齢のときに遺言書を作成しなければなりません。