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KASUYAの税ブログ

相続税・贈与税

税理士新聞掲載  相続税の税務調査 その2

前号では、相続税の実地調査対象者を選定されるまでの署内のおおよその流れを述べた。この稿では、実地調査では、財産毎の調査の着眼点は、どのようなところにあるのかを中心に紹介する。 ところで、税務署は、実地調査に臨む前に、金融機関等に対して書面照会を行っている。どのような形式で書面照会がされているのかは不明であるが、書面照会が必要とする理由は、次のようなことといわれている。 1.申告漏れとなる財産は預貯金の割合が高く、預貯金は他の財産と比べて家族名義などへの分散が行われやすい性質がある。 2.相続税の対象となる財産は、事業用、生活用等に供され、その全てについて保有・蓄積・支出等を明らかにする帳簿等の記録・保存があるとは限らず、その財産を通常管理していた者が死亡してしまったという状況が発生している。 金融機関は、銀行、証券会社等の金融機関をいい、被相続人だけでなく、家族名義も含め、事業用生活用の区別を問わず、その出し入れの記録を照会していることが考えられる。 そのため、税務調査の通知があった場合には、必ず、金融資産等の預入、引出の記録は、事前に税務署の調査官が調べていることを認識して、それに臨む必要があろう。当然、家族名義の預貯金も対象となっている。税務署が何年遡って、金融機関の記録を収集しているのかは、個々の事案にもよるが、金融機関が記録を保存している期間が10年程度といわれているので、可能であれば、なるべく長期間遡り、金融機関の家族名義も含めて、問題点の洗い出しをし、検討しておく必要があろう。   実地対象事案の準備調査とは  実地調査を要すると選定された対象事案について、調査担当者が、さらに、その事案の分析、検討を加えて、調査項目の的確な抽出を行う。この準備調査の段階で、実地調査対象事案が調査省略事案になることもある。また、実地調査に至らない、事後処理対象案件(実地調査以外の調査事案)として、納税者から修正申告を求めて処理を終わらせるものもある。  1.申告審理・準備調査時に追加的に行われる署内資料の収集・検討を行う。 (1) 資産税関係簿書からの検討 a.過去の相続による取得財産からの検討 被相続人ないし被相続人の配偶者が過去の相続で取得した財産を把握し、被相続人の相続開始時点の財産にどのように反映しているのかを把握するものである。 b.過去の譲渡所得、贈与税申告、各種お尋ねの回答からの検討 過去の不動産や有価証券の譲渡等により、その譲渡収入金額の使途をおおよそ確認する。譲渡収入金額が不動産の購入等のために使用されたものなのか、貯蓄されたものなのか等のその使い道が不明の場合には、要調査項目として取り上げられる。 c.借地権の使用貸借、土地等の無償使用の届出書の確認 相続時点の土地等に付着する権利関係を確認し、申告評価額が正しく計算されているかを把握しておくものである。 (2) 所得税関係簿書からの検討 a.過去3年程度の申告書の内容からみて、それに見合った相続財産の申告があるか。 b.利子、配当、生命保険、損害保険の資料から、該当の金融資産や生命保険、損害保険が相続財産として申告されているかの検討 c.過去の所得税調査事績の内容の検討 d.各種法定調書(不動産、利子、配当等)との照合 被相続人の過去の確定申告の情報を把握して、相続税申告の内容が検討されることは当然のことであるが、家族も含まれていると理解すべきであろう。なぜなら、被相続人及び相続人の固有財産の形成は、過去の所得申告情報でおおよそ把握できるからである。所得申告のない相続人である配偶者やその他の親族が、金融資産を増やしている場合には、その理由について相続税申告前に検討すべきであろう。  (3) 法人関係簿書からの検討 a.法人税申告書(勘定科目内訳書)から被相続人等に係る貸借関係の検討 法人が被相続人からの借入金や預り金等が貸付金等として相続税申告書に反映されているかが検討される。 b.法人の取引金融機関の把握 法人が金融機関に口座を持っている場合には、被相続人や相続人も口座を開設している可能性が高い。 c.株式(出資金)の異動状況の把握 株式等をめぐる相続税、贈与税に関連する重要な情報である。 d.過去の調査事績の検討   なお、法人の業績が悪く、会社代表者である被相続人が、会社に多額の貸付金を残して相続を迎えることが散見される。被相続人の会社への貸付金は回収が困難であるが相続財産として通常の評価がされると思わぬ相続税が課税される。会社への多額の貸付金がある場合には、早めに、債権放棄等の対策をとっておくことが大切である。 また、名義株がある場合には、早めに、実質上の所有者の名義に変更するために、名義人から名義株である旨の確認書をもらっておくことが必要になる。  (4) 追加的に行う署外資料の収集・検討 a. 事前の照会回答内容の整理・検討を行い、不足があれば「補完照会」を実施する。 b. 照会回答の遅延があれば、電話督促等をして早期にその資料の収集を図る。 要調査項目を資料等で、実地調査前に効率的に、正確に、確認できるかがポイントといえよう。   準備調査における調査事項の整理と調査の着眼点とは 実地調査に臨む前に、準備調査段階で、実地調査で調査する項目をペーパーにまとめ、実地調査をどう進めるかの着眼点、すなわち、財産の申告漏れとか、財産の評価額の誤りとか等のどのような非違事項を目標とするのかを事前に明確化する。   職業・経歴・年齢・所得状況からみて、申告財産の構成状況はどうか。
  • 申告財産は、所得の種類、資産の蓄積状況からみてどうか。
  • 高額所得者の場合には、社会的地位からみた財産、趣味、娯楽、家族の資産形成をみる。
  • 不動産所得者の場合は、家屋以外の要評価物件、家賃・地代の未収・供託の状況はどうか。
  • 自営業者の場合、取引先との貸借関係、事業用資産の申告の状況等を把握する。
  • 同族法人等の役員の場合は、会社等との貸借、名義株、未収給与等、後日払いの退職金等の状況を確認する。
  • 株式の異動状況については、証券会社・証券代行からの照会への回答や配当金通知書との照合、家族名義の異動状況等を把握する。
  • 預貯金の異動状況については、不明入出金整理票を作成する。
特に、多額な入出金の原因・結果、家族名義の関連、不自然な端数入金の内容、直前解約の使途、相続後の多額な入出金の内容について解明をする。
  • 借入金の化体財産の把握
借入金で、不動産を購入したのか、有価証券を購入したのか等の借入金の見合いの財産を把握し、その見合い財産が見当たらない場合は、借入金としての債務性の確認をする必要がある。   相続税の税務調査では、被相続人の財産だけでなく、家族の財産を実地調査前に、増減状況等を把握されていることを認識していただきたい。実地調査では、調査官は、例えば、多額な支出の使途について、不明であるから聞く場合と、準備調査段階では、その支出内容が推定出来るが、確認のための質問がある。納税者の回答が、推定と異なっている場合は、その理由を解明することがおこなわれる。金融機関からの借入金ではない債務が申告されている場合には、債務が消費貸借契約である場合には、契約成立時に、金銭が借り主に渡っているのか等の確認と、債務の弁済の状況等の債務の実在性について確認をしておくことが大事であろう。  

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