(吉野画伯 提供)
遺留分侵害を判定するための遺留分算定基礎額は
質問:
父の遺言を書くにあたり、長男には、少なくしか遺贈しないようです。長男には遺留分があると聞いています。長男の遺留分の侵害額がどのように計算するのかをお教えください。
回答:
長男の遺留分額を計算する場合には、遺留分算定基礎額に遺留分割合を乗じて計算します。
遺留分額=遺留分算定基礎額×遺留分割合
遺留分算定基礎額とは、被相続人が相続開始の時に有していた積極財産に、特別受益に相当する一定の贈与財産額を加算し、債務を控除した金額(民1042)をいいます。そこで、計算式の内容を解説しますと次のようになります。
(1) 被相続人が相続開始時において有していた積極財産額とは
積極財産額とは、被相続人の金融資産、動産、不動産、債権などの財産をいいますが、祭祀財産や被相続人の一身専属権は、その財産には含まれません。積極財産額のなかに、条件付権利や存続期間の不確定な権利がある場合には、家庭裁判所が選任した鑑定人が評価し決定します(民1043➁)。不動産については、その価額について相続人間で意見の相違がある場合には不動産鑑定士等の鑑定価格を採用し、債権については債務者の資力等を考慮して、回収可能額となります。
(2) 一定範囲の贈与財産とは
① 贈与が相続開始前の1年間にした贈与財産(民1044前段)が対象です。但し、相続人に対するものは10年間にした財産とし、その贈与財産の範囲を婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与に限ります(民1044③)。
➁ ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした相続開始の1年前の贈与財産(民1044後段)も含むものとされています。また、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした相続人に対するものは10年前も含むものとしますが、贈与財産の範囲を婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与に限ります(民1044③)。
ここでいう「遺留分権利者に損害を加えることを知ったもの」と認定するには、「当事者双方が、贈与財産の価額が残存財産の価額を超えることを知った事実ばかりでなく、なお将来被相続人の財産に何ら変動がないことの予見の下に贈与があった事実を判示しなければならない(大判昭11/6/17)とされていますが、このことの立証は減殺請求者がすることとなっております。
③ 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした不相当な対価の有償行為の対象となった財産は、負担付贈与財産としてみなされ、実質的に贈与を受けた金額(民1045➁)が①と➁の贈与財産額となります。
贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又は、その価格の増減があったときであっても、相続開始時においてなお原状のままであるものとみなして、価額を決定する(民1044➁、民904)。
c. 債務は
買掛金、借入金、租税債務など、私法上、公法上、いずれの債務でも、遺留分算定基礎額から控除します。保証債務は含まれません。負担付き債務や存続期間が不確定のものである場合、その額は、家庭裁判所が選定した鑑定人の評価に従って定められます。