―配偶者居住権を設定することによる第1次相続及び第2次相続に関する相続税の影響を検討する。―
1.はじめに
配偶者居住権が民法に新たに創設され、2020年4月から施行されました。相続税法では、その民法改正を受けて配偶者居住権を建物及び土地に設定される債権として、その権利が相続税の課税対象財産を構成するものとして扱われるようになりました。
そこで、具体的な例に沿って、配偶者居住権の評価額の計算とその課税上の取り扱いを具体的な数値で説明することで、配偶者居住権を設定する意義を理解していただければと考えます。
なお、ここでの解説は、あくまで、配偶者居住権及びその設定に関連する課税上の取り扱いのみを取り上げます。
本来、配偶者居住権を設定することによって、どのような利害得失、影響が予想されるのかあるいは親族間の法的な関係の変化についてはこの解説では触れません。配偶者居住権の設定による民法上の問題は、弁護士、司法書士等の法律専門家にご相談下さい。また、この稿での解説では、配偶者居住権等の価額を算出するための論理や考え方については触れません。配偶者居住権等の価額等を算出する考え方等を知りたい方は、ブログの別稿を参照して下さい。
2.配偶者居住権等の価額とそれを設定しない場合の価額の比較
具体例を上げて、ご説明致します。
事例 居住用不動産として、土地250㎡(相続税評価額1億2500万円)、建物200㎡(相続税評価額1千万円)を所有している東京太郎氏が2020年10月20日に死亡しました。その相続人は2人で、妻花子氏、長男一郎氏が協議分割をおこない自宅の土地建物は一郎氏が相続し、その居住建物には花子氏の配偶者居住権を設定することで、その分割協議が2020年2月3日に整いました。
配偶者居住権等の相続税評価額を計算するに当たり、必要な情報は、次のようになります。建物の建設年月は、2005年5月1日で、木骨モルタル造りとします。花子氏の生年月日は、1950年1月15日です。
配偶者居住権等の価額とその価額を控除後の土地建物価額を計算すると以下のようになります。
- 配偶者居住権等の評価額の計算結果
- 配偶者居住権の価額(建物に設定された権利の価額)
- 配偶者居住権控除後の居住用建物価額
- 配偶者居住権に基づく敷地利用権の価額
- 敷地利用権控除後の土地相続税評価額
- 配偶者居住権を設定した場合の各相続人の分割後の相続財産の価額は
- 配偶者(花子)は、配偶者居住権 10,000,000円と配偶者居住権に基づく敷地利用権の価額55,750,000円を取得します。
- 長男(一郎)は、配偶者居住権控除後の居住用建物価額0円、敷地利用権控除後の土地相続税評価額69,250,000円を取得します。
- 配偶者及び長男の相続した土地建物の総額は、1億3500万円となり、分割前の相続税評価額である土地1億2500万円と建物1千万円の合計額と等しくなっております。
- 長男(一郎)は、建物1千万円と土地相続税評価額1億2500万円となります。
- 配偶者及び長男の相続財産の合計額は、1億3500万円となります。
- 被相続人(太郎)と長男(一郎)とが同居
- 配偶者居住権の設定のあるケース
- 配偶者居住権の設定のないケース
- 被相続人(太郎)と長男(一郎)とが非同居で小規模宅地の軽減の適用要件を満たさないケース(配偶者は被相続人との同居要件を満たす。)
- 配偶者居住権の設定のあるケース
- 配偶者居住権の設定のないケース(配偶者は被相続人との同居要件は満たす。)